肺がんとは(概論) 肺がんの治療法

プロフィール

佐藤 幸夫

筑波大学 医学医療系 呼吸器外科 教授

疫学

日本人の死因の第一位
日本人の死因別死亡率の推移をみますと、日本ではがんによる死亡率が増加の一途を辿っています。心臓病、脳卒中を大きく引き離し、現在、がんが、死因の1位になっております。2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで死亡する時代で、この割合は増え続け、近い将来2人に1人ががんで死亡する時代になると予測されています。

罹患も増加
全国がん罹患推計モニタリングの結果でも肺がんは罹患数・死亡数ともに増加してきており、今後も増加していくと予想されています。

原因

喫煙
肺がんの原因として最大のものはやはり喫煙です。我々手術の際にいろんな患者さんの肺を拝見するのですが、煙草を吸われていない方の肺はきれいなピンク色をしています。
これが、自分は吸わないけれど、配偶者がヘビースモーカーの場合、タバコの炭粉が沈着し黒い網目模様が肺全体に広がります。さらに、ご自身でたばこを吸われる場合、例えば1日20本程度で20年間煙草を吸い続けていると、痰粉の沈着が進み肺の大部分が黒く変化します、内部も肺胞と呼ばれる微小な袋が破壊され肺気腫と言う状態になります。

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また、更に、1日60本50年間というようなへビースモーカーの方では肺全体が文字通り真っ黒になり、内部も高度の肺気腫となり正常な細胞がほとんどない状態となります。煙草を吸わない非喫煙者のがん罹患リスクを1とした場合、肺がんの場合は、1日20本を20年吸った方で4.5倍となっています。
また喫煙による肺がん死亡リスクは20倍以上と、喫煙者は肺がんになりやすい上に、その悪性度も高いことが判ります。

高齢化
日本では医療の発達と共に脳卒中や心疾患で死亡する率は減り、長生きする人が増え、高齢者が増加しています。
がんは高齢者に多い疾患ですから、高齢者が増加すればがんの患者さんは増えることになります。

 

女性、非喫煙者の罹患増加

PM2.5等の影響も
肺がんに関する学会にて構成された肺がん登録合同委員会では肺がん手術例の全国調査を定期的に行っております。その結果をみると女性・非喫煙者の割合が増加してきていることが判ります。これは我々が日常肺がんの患者さんの診療にあたっていても実感していることです。
女性の肺がんの増加の原因として女性ホルモンも関与していると推測されていますが、近年社会問題となってきているPM2.5もその原因の一つではないかと考えられています。PM2.5は非常に細かい粒子であるために、肺の奥深く肺胞まで到達し、人体に様々な影響を及ぼします。
WHOの機関であるIARCは2013年にPM2.5が肺がん等を引き起こす発がん物質であることを認定しました。PM2.5は自動車の排気ガス・工場の排煙等がその主な源です。勿論国内で発生するPM2.5もありますが、偏西風にのって中国から飛んでくるPM2.5もあり、社会問題となっており、肺がん罹患の増加が懸念されます。

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肺がんの種類(組織型)

肺がんはその組織の特徴により、大きく非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分類され、治療法が異なってきます。
非小細胞肺がんは、「腺がん」 「扁平上皮がん」 「大細胞がん」の3種類に分類されます。

腺がん
肺がんの半数以上を占め、年々増加しています。女性あるいは非喫煙者の肺がんの多くを占め、 肺の末梢に発生するため、症状は出にくく、検診で発見される事が多い肺がんです。進展形式としては 胸膜播種・遠隔転移を来しやすいのが特徴で腫瘍マーカーとしてはCEAが重要です。

扁平上皮がん
肺がんの約3割弱を占め、喫煙者に多く、95%が男性で、太い気管支に好発します。
症状には咳・痰・血痰・発熱・呼吸困難などがあり、気管支を狭窄・閉塞して肺炎・無気肺を来すことがあります。
腫瘍マーカーとしてはSCC CYFRA が重要です。

大細胞がん
肺がんの約1割弱で男性に多く、肺の末梢に発生し、増大速度が速いのが特徴で発見時には既に大きな腫瘤を形成していることが多く、縦隔や胸壁へ浸潤しやすいがんです。
抗がん剤・放射線に反応しにくく予後は不良です。

肺がんの約1割を占め、喫煙と関係が強く、比較的太い気管支に発生します。
悪性度が高く、進展が早いのですが、抗がん剤・放射線の効果が期待できます。しかし再び成長するスピードも速いのも特徴です。
腫瘍マーカーとしてNSE, ProGRPが重要です。

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検査

肺がんの検査のメリットとデメリット
肺がんの検査には、胸部X線検査(いわゆるレントゲン検査)、CT検査、PET検査、気管支鏡検査、頭部MRI検査等があります。

胸部X線検査
簡便に施行できるのが利点ですが、小さな陰影や淡い陰影が判りにくい、死角になる部分が存在するなどの欠点があります。

CT検査
死角になる部分がなく、小さな陰影や淡い陰影も発見しやすいのが利点ですが、費用がかさむ、放射線被曝量が多くなる等の欠点があります。

PET検査
がん細胞が正常細胞よりブドウ糖を多く消費することを利用した検査で、陰影の良悪性の鑑別、リンパ節転移、骨転移等の転移の診断に用いられます。

気管支鏡検査
気管支内を観察すると共に、組織や細胞を採取して診断をつけたり、気管支が狭くなる病気の治療にも用いられます

頭部MRI検査
脳転移の検索に用いられます。

病期分類STAGE

肺がんの進行度は病期(Stage)で表され、治療法を決定する目安となります。

【TNM分類】
●原発巣の状況を表すT因子、
●リンパ節転移の状況を表すN因子
●遠隔転移の状況を表すM因子

上記により規定された3因子は大きくI〜IV期に分類されます。

T因子
腫瘍の大きさ、周囲への浸潤によりT1aからT4に分類されます。

N因子
リンパ節転移のないものがN0、肺門までのリンパ節転移があるものがN1、縦隔リンパ節転移があるものがN2、更に広範なリンパ節転移があるものがN3となります。

M因子
遠隔転移で転移の無いものがM0、対側肺転移、胸膜播種、悪性胸水、悪性心嚢水がM1a、多臓器転移がM1bとなります。

これらを組み合わせてI〜IV期に分類され、更にI〜III期はaとbに細分されます。

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治療

治療には手術、化学療法、放射線療法、緩和治療があり、病状に応じ、これら単独または組み合わせて治療を行います。
手術は、切除可能な状況であれば最も治療効果が高く、I~IIIA期が適応となります。
放射線療法はがんが局所にとどまっている場合には手術に次いで有効な治療法です。症状緩和の為に行われることもあります。

IIIB~IV期の進行がんは抗がん剤を用いた化学療法が主として行われます。この段階になると根治を目指すことは困難で、生存期間の延長やQOLの改善を目的として行われます。
緩和療法は痛みや呼吸困難などの症状を和らげるための対症療法になります。

治療成績

肺がん登録合同委員会の調査によると、手術成績は1989年には5年生存率が5割弱だったものが、2004年には約7割と15年間で20%改善してきています。IA期の5年生存率は8割後半であり、早期に発見できた肺がんの治療成績は良好と言えます。

対して、基本的に手術の適応とならないIIIB~IV期の平均生存期間は1年弱であり、進行肺がんの治療成績は非常に厳しいのが現状で、近年開発されている遺伝子治療薬、免疫治療薬により改善が期待されています。

茨城県のがん登録データによると肺がん登録された患者さんのうち手術を受けられた患者さんは約3割にとどまっています。つまり約7割の患者さんがIIIB期以上の進行がんであったと考えられます。IIIB期以降は治療成績が非常に厳しいのが現状であり、根治を目指すにはより早期に発見し手術を含めた治療を行うことが必要といえます。

検診

がんの早期発見のために現在主に行われているのは胸部X線検査による検診です。しかし先ほどもお話しましたように胸部X線検査は簡便に施行できるのが利点ですが、小さな陰影や淡い陰影が判りにくい、死角になる部分が存在するなどの欠点があり、早期肺がんを十分に発見できていません。

また、疑陽性も多く、要精検者のうち、実際に肺がんと診断されるのは70人に1人に過ぎません。より早期に肺がんを発見するためにCT検診に期待が寄せられています。

アメリカでは、CT検診が喫煙者の肺がん死亡を減少させるデータも発表され、日本でも地域によっては肺がんのCT検診が行われるようになり、胸部X線検査の10倍以上の発見率が報告されております。
当院でも早期肺がん発見のためのCT検診を計画中であり、28年度から施行予定です。

まとめ

現在、がんは日本人の死因の第一位であり、部位別には肺がんが最多であり、今後も増加していくことが予想されています。

その治療には、手術、化学療法、放射線療法があります。早期に発見し手術を行うことが根治を目指す上で重要となります。

早期発見の為には検診を受けることが必要で、その精度向上にはCT検診に期待が寄せられています。