肺がんの手術療法 肺がんの治療法

プロフィール

後藤 行延

筑波大学 医学医療系 呼吸器外科 講師

手術の適応

疾患要因
肺がんには進行の程度(ステージ)による治療法の優先順位があります。
患者さんが受けた画像診断検査、例えば胸部CT、脳のMRI、それから骨シンチ等々によって、がんのリンパ節や全身への広がりが評価されます。最近ではPET検査も導入され、普及しております。
さらに、気管支鏡検査を行い、経気管支的に組織を取ってがん細胞の存在が証明されれば、確定診断となり、これらの各検査を総合して、患者さん毎に、がんの進行度やステージが決まります。

通常、がんが肺の一部分に限局しているようなステージⅠ、加えてがんに近いリンパ節だけ転移が疑われるステージⅡ、そこまでは一般的な手術適応となります。更に離れた肺門部から縦隔までにリンパ節の転移が疑われたり、周辺の臓器に直接浸潤しているようなステージⅢの患者さんでも、状況に応じて手術治療を優先することがあります。

患者要因
一方で、肺がんとして手術が可能な状況であっても、患者さんそれぞれの状況、いわゆる耐術能という意味で、手術以外の他の治療方法を優先する患者さんもいらっしゃいます。
ですので、手術前にご本人のお身体が手術に耐えられる身体かどうか十分に調べることが大切です。

特に重要なのが肺の機能、心臓の機能検査による評価、及び合併する様々な病気、例えば、糖尿病や間質性肺炎といった背景にある内科的疾患、既往症のコントロールが十分かどうかということなどを十分に検討する必要があります。

肺機能に関しては肺機能検査、あるいは歩いたり、階段を昇降したりしながら血中酸素濃度を測るテストを行い、がんを切除して残った肺の容量で、その後の生活が十分に行えるかどうかを評価する、そこが重要なポイントになります。心機能に関しては肺を切除した場合、心臓に負担が掛かります。その具合を心臓の超音波検査、あるいは、ある程度心臓に負荷を掛けた形で心電図をとるというような検査で評価いたします。

以上合わせて、がんのステージと患者さんの耐術能、この二つで手術を出来るか出来ないか、あるいは他の治療法を優先すべきかどうか、という選択になるかと思います。

手術の方法

肺がんに対する標準の手術方法というのは、肺葉切除、及び縦隔リンパ節郭清というのが標準です。
肺は右に三つ、左に二つの大きな風船に分かれています。その風船一つ一つが肺葉という名前がついておりまして、左右の肺の間にある組織を縦隔といっております。
例えば右の上の風船にがんが出来た場合、上葉原発の肺がんということになり、右の上葉切除及び縦隔リンパ節郭清、あるいは左の下にがんが出来た場合、左の下葉切除及び縦隔リンパ節郭清というような方法になります。

胸腔鏡下手術
従来の開胸手術は、乳房の下から背中まで及ぶ大きな傷を作り、胸はお腹と違って肋骨が鳥籠のように取り囲んでおりますので、肋骨と肋骨の間の筋肉を切って、さらに肋骨を一部、切除する形で傷を広げて、直視下に肺そのものを見て触れて手術する開胸手術が主流でありました。
しかし、ここ数十年、技術の進歩で胸腔鏡という内視鏡を用いた手術の割合が、全国でも徐々に半分を越える状況になってきています。

内視鏡を胸腔内に挿入して、得られた映像がテレビモニターに映りますので、そのモニターを見ながら、器具を操作をして手術を遂行する、これが胸腔鏡下手術です。
当院の胸腔鏡下手術では、手術室にワイドインチのハイビジョンモニターを4面装備し、それらを用いた胸腔鏡下手術を積極的に導入しております。
開胸手術に比べると手術時間は多少長くなる場合もありますが、術後の患者さんの退院までの期間や合併症の発生率、その後の傷の痛みを含めたQOLという意味では、胸腔鏡下手術が優れていると言われておりますので、安全性、確実性を追求しながら、より低侵襲な手術を進めております。

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当院の割合としては、昨年のデータで全手術症例の8~9割で胸腔鏡下手術が施行されています。

より安全、確実に行うための工夫として、手術前のCT画像から気管支や動脈(赤)、静脈(青)、血管の走行を描出した3D画像を作成、これを使って術前にシミュレーションを行い手術に臨んでおります。(腫瘍:ピンク)

 胸腔鏡下手術における患者さんのメリット
傷が小さくて済む、低侵襲であるというのが大きな利点です。大体、手術する側、腋の下に4~5cm位の傷が1箇所、その他、手術機械が入る1cmくらいの傷が2~3箇所できる形となります。
従来の大きな30~40cmを越える皮膚の切開に比べると、患者さんの負担は少なく、患者さんに優しい手術ということになります。一方でご病気の状態、あるいは手術の性質によっては、従来通りの開胸手術が必要になる場合もあります。また、手術中の状況、出血や胸腔内の癒着の程度等によって、元々、胸腔鏡で始めた手術が途中から開胸手術に移行する、という場合も少なくありません。

大学病院としての取組み
開胸手術で行う、特に左の肺、あるいは右の肺、一方の肺を全部取るような手術(肺全摘)、あるいは、直接他の臓器に、浸潤しているような病変を一緒に取るような合併切除をする手術も時には必要です。また、通常の肺がんの手術は、基本的に動脈、静脈、気管支を切り離すという切除だけの手術になりますが、これに再建といって、また気管支や血管を縫い合わせて繋いでくるというような形成、再建を伴う手術のような拡大手術というものの場合には、開胸手術として積極的に取り組んでおります。
その他に先端医療を担う大学病院の機能として、手術を単純に行うという前に抗がん剤による治療、あるいは分子標的薬による治療といったような術前の治療を行って腫瘍を小さくした上で手術を行うということを臨床試験として行う場合があります。

手術後の経過

手術が終わると患者さんは、重症病棟(HCU、ICU)と呼ばれる病棟に移動します。
そこで通常、一泊過ごした後、次の日、手術自体は食べ物の通り道や、消化管をいじる手術ではありませんので、朝からお水を飲んでいただいて、喉の調子がよろしければお昼から食事、薬の内服等が始まるという経過になります。
術後、平均して7~8日で退院というのが当院の平均です。開胸手術、大きな傷になった場合でも2週間程度というようにお話しさせていただいております。
ただ、これは術後、良好な経過を辿った場合で、特に様々な合併症を起こした場合には、入院期間が延びたり、あるいはこれが致死的なものになることがあります。