通常型膵がんの治療 膵臓がんの治療法
プロフィール
小田 竜也
筑波大学 医学医療系 消化器外科 教授
通常型膵がんとは?
通常型膵がん、すなわち一般的に言う膵がんは治療が難しい難治がんの代表です。難治がんである理由にはいくつもの要因が重なっています。
発見が難しい場合
■体の奥にあり症状が出にくい
例えば乳がんは触診で気付く事ができるし、直腸がん等は便が出にくいとか、便に血が混じるといった症状から個人個人が“アレッ?”と思い気づくきっかけがあります。しかし、膵がんは腫瘍が出来ても症状が出にくく、黄疸、背中の痛み、糖尿病の悪化といった症状が出るのはかなり進んでからなので、治療が容易な早い段階で見つけることが出来にくい。
■簡単な検査手技でみつけにくい
肺がんは胸のレントゲン写真、胃がん、大腸がんはバリウム造影検査、さらには内視鏡カメラといった日本では当たり前に普及している検査で検出可能です。しかし、膵臓のスクリーニング方法である超音波(エコー)検査では胃の裏側にある膵臓は観察しにくい。
造影CT検査が膵がんを検出する上では最も有効な手段ですが、元気な人皆に健康診断として施行することは医療経済的にも、放射線被曝という点からもおすすめは出来ません。
■早期発見のマーカーが無い
採血で異常値として現れる代表的な腫瘍マーカーであるCA19-9も、膵がん患者の70−80%にしか陽性になりません。さらに、2cm以下の早期膵がんにおいては約50%にしか陽性にならない上に、膵がん以外の膵炎、胆管炎などでもあがる事があり、早期発見の決め手になりにくい。
それ以外に CEA、 DUPAN-II、 SPAN-1といった腫瘍マーカーがありますが、同様に早期膵がん患者を検出する感度は十分とは言えません。
病気の進行にあわせた3つの治療法
通常型膵がんの患者さんは、病気の進み方によって3つの段階に分けてそれぞれにあった治療法を考えます。
1つ目の比較的早い段階、つまり膵内にがんが留まっている場合には、まず手術によって病気を取り去る事が基本です。ただし、手術だけで“もう大丈夫”と言えないのが膵がんの難しい所で、術後には約半年間、外来で抗癌剤治療を追加する事をお勧めします。
2つ目は、局所進行と言われる状態です。先ほど、膵臓はお腹の要となる血管の周りにあると説明しました。ですから、膵がんは比較的容易に周囲の血管、リンパ節に広がってしまうのです。
その中でも、無理すれば手術をして取れる状態の方を私達はボーダーラインと呼んでいて、実はこの状態の患者さんをいかに助けるか、というのが外科医を中心とした医療者が一生懸命考えている所です。
一つの作戦は、まず外科切除を行って、その後の術後治療に強い抗癌剤を組み合わせるとか、放射線治療を組み合わせるとかするものです。2つ目の作戦は、まず強い抗癌剤や、放射線治療を行って、それから手術を行うという方法です。
もう一つは病気を残さずに手術で取り切ることは技術的にも無理だという状況の患者さんです。この場合、放射線治療を中心として抗癌剤を組み合わせたりしながら膵臓を中心に治療をして、その後、抗癌剤治療をずっと続けていくという治療法が薦められます。
3つ目の病態は転移がある患者さんです。膵臓の状態が膵内にとどまるか、局所進行かに関わらず、肝臓とか、肺とか、場合によっては腹腔とか、遠くへ病気が飛び火している患者さんがいます。この場合、内科医による強い抗癌剤治療が必要になりますが、病気による症状、治療による副作用もそれなりに辛いことも多く、緩和医療を専門とするチームがサポート部隊として加わっていると安心です。