3. 医療空間におけるメディアアートプロジェクト 病院とアート
プロフィール
村上 史明
筑波大学 芸術系 助教(総合造形)
筑波大学附属病院では、「アスパラガス」が提案するギャラリー以外にも様々な場所でアートに触れることができる。洋画、書、写真、映像コンテンツなど総合的なアートマネジメントは、毎月一度、附属病院にて行われる「病院のアートを育てる会議」にて芸術側と病院側の協議のもとに進められている。ここでは総合造形領域でメディア芸術を指導する村上史明先生に、メディアアートと病院の有益な関係について語っていただいた。
村上「取り組みとして行っていることはたくさんあります。ひとつは附属病院の1階に設置された3台の映像モニターを使用したデジタルサイネージコンテンツの制作です。もうひとつは小児病棟(けやき棟)の子どもたちとアニメーション映像を制作するワークショップを行いました。他には、学生が履修している授業の中で「つくば働く人」というテーマで撮影した写真を病院内で展示しました」
映像コンテンツの内容は学生側から提案するエンターテイメント性の高いものと、病理や治験の解説などをわかりやすく紹介する、病院から依頼されるものがある。メディアアートの観点から見てもこれらの取り組みは病院という環境にマッチしていると村上先生は語る。
映像など現代の私達に身近なメディアを使用することで、来院者により分かり易いアートの提案となる。アニメーション作品の上映することで、待ち時間を有効に使っていただけるだけではなく、アレルギー反応を説明したアニメーション作品などが示すように有意義な時間を過ごしていただくことが可能になる。小児病棟でのワークショップでは患者やその両親にとっても印象的な取り組みとなった。
村上「入院している子ども達が絵を描いて、それを学生がスキャンしてアニメーションさせました。最終的には出来上がった映像を病棟の天井に投影して全員で鑑賞します。子どもたちは寝転んで自分の描いた絵が動いているのを観るんです。その時の反応が忘れられないですね。看護師さんからは、いつも騒いでいた子どもたちが非常に穏やかな表情をしていて、これは今までになかったと言っていただけました。親御さんからも、ワークショップ中は安らげたという感想をいただけました。そのようなフィードバックが何回かあって、この取り組みは続けた方がいいなと思っています」
ここでもワークショップの企画から運営まで学生が主体的に行っている。教員は主に衛生面・安全面に関する病院との連携がメインとなっている。この取り組みは患者とその親、看護師だけでなく、学生にとっても非常に貴重な体験になったと村上先生は語る。
メディアアートと病院の関係は、双方にとって価値のあるものになっている。テクノロジーの発展により、メディアアート表現の多様化し、今後さらに広がっていくだろう。
村上「この取り組みの展開を考えると、筑波大学附属病院だけではなく全国の病院に提案ができるのではないかと思います。メディアアートの世界では映像を使ったインスタレーション自体に新しさはありません。しかし、病院内でこういった活動を行うという点に価値があります。そして作品制作にあたっては、監修に医師の方々に関わっていただいています。医学的な正確さを持ったコンテンツを作ることで、芸術の学生も医療のことを学べるというのは教育として非常に可能性を感じていますね。そして研究として、もう少し分析をできればいいなと思っています。我々の取り組みにどういう効果があるのかを数値化して論文にする、というところまでできると、私たちのやっている感性的な芸術が学術的にも裏付けられるのではと思っています」