トレーニング戦略と実践 【筑波大学バドミントン部】 理論を実践に組み込む
プロフィール
- 吹田 真士 筑波大学 体育系 助教
- (公財)日本バドミントン協会 普及指導開発部 部員
バドミントンに必要な運動を分解して強化する
選手のパフォーマンスのピークを設定したトレーニング計画
1stシーズン(5・6~7月)
すべての動きのベースとなる酸素摂取能力を高めるトレーニングを進めつつ、前述の「バドミントンの試合を戦うために必要な運動」の各要素を伸ばすトレーニングを実施した。
吹田 「実際の動きを選手が全力で取り組むということはもちろんですが、運動の仕方に正しさがあるかに注意します。例えば、目線を高くキープし続ける事。目線が下を向いてしまう事によって、運動の姿勢が適切ではなくなります。さらに、運動の切り返しのタイミングで力が抜けてしまわないようにすることなど、動きの質につながる部分の注意を選手も指導者も怠らないということが重要です」
2ndシーズン(7・8月)
トレーニングに多様性を持たせる
運動の前提となる基礎的な筋力や持久力、酸素摂取能力を向上させつつ、バドミントンに求められる爆発的な動きをトレーニングしていく。データから導き出した「バドミントンの試合における必要条件」の運動量を元に、それぞれの動きに多様性を持たせる工夫を行った。
「運動の時間:休息の時間」の比率を調整する事で、使用されるエネルギー供給系を切り替える事が可能だ。筑波大学では、この比率を1:3程度にコントロールすることで、ATP-PC系のエネルギー供給を重視したトレーニングを続けてきた。
吹田「バドミントンはワークとレストが交互に現れる間欠的な競技です。過去の研究では、バドミントンに必要な運動要素のそれぞれに対して、1回の運動に必要な強度はどれくらいか、動く距離はどれくらいかというデータがあります」
より実践的で多様な動きを身につけるために、決められたメニューをこなすのではなく、自分たちの創意工夫を取り入れていく。選手自身がトレーニングの重要性を理解し、より積極的に取り組む事ができたと吹田先生は語る。
3rdシーズン(8月初旬~9月中旬)、4thシーズン(9月下旬~)
全日本学生バドミントン選手権大会(全日本インカレ)に向けての調整が佳境に入ってくるこのシーズンは、短いスパンで様々な大会を戦っていく時期でもある。2015年度に関しては8月の末から9月の頭に、全日本インカレの出場権をかけて戦う東日本学生バドミントン選手権大会(東日本インカレ)、その翌週には2週間の長期間を戦う秋のリーグ戦、そこから約半月程度のスパンを空けて、決戦である全日本インカレが開催される。
吹田
「それだけ試合が続いていくと、大会の遠征期間中にコンディションが落ちてしまったり、疲労から回復できないということがあります。普段からものすごくハードな練習をしていて、大会では試合だけで終わってしまうとなると、どうしてもトレーニングの量や強度が落ちてしまうんです。すると一番大事な全日本のインカレで、ベストのパフォーマンスが出せなくなってしまう。そのことを今年度は選手が十分に理解していました」
大会期間中、筑波大学バドミントン部の選手は、会場内にトレーニング機材を持ち込み、試合が終わった直後にその場で自主的にトレーニングを行うということを実践してきた。
吹田
「選手は自分が何をしなければいけないのかを十分に理解してやってくれていました。なにより、試合後にもトレーニングをすること自体を当たり前の事だと思ってくれたところがよかったです。国際的に活躍する選手たちは、試合後のトレーニングは当然のように実践しています。筑波大学からも海外に遠征に行った選手がいたので、彼女たちは”試合に行って試合だけで終わってはダメだ”ということを経験して帰ってきたんですね。それがチームにも浸透したのかなと思います」
2015年度の新しい取り組み
2014年度は春のリーグ戦、秋の全日本インカレを大きなマイルストーンに設定してきたが、2015年度は国内大会に加え、国際大会「ユニバーシアード」でのメダル獲得を重視。そのため、バドミントン部全体のピリオダイゼーション(期分け)と、ユニバーシアード出場選手のピリオダイゼーションに大きな違いが生じた。
吹田
「チームとしては春と秋の2重周期で考えましたが、ユニバーシアードの出場選手2名(加藤・柏原)に関しては、ユニバーシアードの選考会と本大会、秋のインカレ、その先のオールジャパン、すなわち年間の3重周期をどう戦うか、ということが課題として出てきました。2重周期と比べて準備に費やせる時間が少ないため、これまでのように筋力トレーニングで作った筋肉をバドミントン用に変えていく時間はありません。それなのでパワーを直接つけていくようなトレーニングを2015年の6月以降は行ってきました。その手応えを実感できたので、夏以降にはチームの他の選手にも実施させるようにしました」
具体的には空気圧負荷を使ったマシントレーニングだが、ただ筋肉を鍛えるだけではなく、バドミントンの動きと直接関係するような動きを加える事で、より機能的な筋力トレーニングを実現したのである。